フジテレビが予定通りに、ニッポン放送株のTOBをおえた。       あとは、新株発行権とめぐる差し止め訴訟の結果しだいということで、法廷の場にもちこまれたことになる。 

 両者譲らずとことん、戦う意向をしめしているが、実は、一方では、水面下では話し合いによる打開策を打診する動きがでている。 トヨタ自動車社長で、日経連会長の奥田氏がいみじくも会見で、両者をたしなめるような発言をしている。 

 さらに、それまで、「金でなんでもできるという風潮はけしからん」と発言していた政治家達もそのトーンをかえてきた。 ライブドアの時間外取引による株入手を「違法」といわんばかりに発言していた麻生総務会長は、記者団に対して、「違法とはいっていない。合法だよ。今度、いつ君たちの会社がこういう目にあうかわからん」 とそのトーンをかえている。  こうした背景を記述する前に、実は、3月7日、突然と、「日枝と堀江が極秘会談をおこなった」という情報がながれた。

 この情報は直ちに両者によって、否定されたが、一部には、「日枝、堀江極秘会見概要」というぺーパーがながれているのだ。  
 その内容は、ひろってみると、 両者の会談は、財界の有力者の一人の仲介によってなされた。これは、政界、経済界の意向をうけたもので、「両者のいたずらな対立は日本経済、ひいては金融マーケットに甚大な影響を及ぼす。両者は主義主張による対立でなくて、あくまでも経済行為にもとずくものである。和解、話し合いによる解決が望ましい」とされていて、会談場所は、都内某所。
 会談日時は不明とされているが、3月上旬、つまり、フジテレビのTOBの期日である3月7日の前の週と推定される。  
 その内容をそのまま記述してみる。
 日枝サイド「両者は互いの企業利益を考え、その立場からこれまで発言してきたし、その為の最良とおもわれる方法で、経営者として対応してきた。あくまでも互いの立場にもとずくものであって、私は個人的には、恨みも辛みもなにもない」
 堀江サイド「それは私もおなじです。個人的な恨みや憎しみはない」
 日枝サイド「であれば、端的にいうと、ライブドアの買取値で買い取るという提案はいかがだろうか?その方法については、いろいろ模索するとしてだ」 堀江サイド「私は、株の買取を目的に今回の行動をおこしたわけでもないし、乗っ取りを目的としたものではない。あくまでも業務提携をしたいだけだ」
 日枝サイド「貴方の言い分はわかる。しかし、両者の関係が、ここまでマスコミにとりあげられ、敵対関係としてうけとめられている以上、今、ここから業務提携というのは難しい話でないか」
 堀江サイド「敵対関係というけど、私には敵対する意思はない」
 日枝サイド「互いの立場を理解するのも、ビジネスの上で重要なことだ。敵対する意思がないというのであれば、これ以上の株を取得する必要はないのではないか。両者がどこかで、歩み寄りをした段階であれば、もう一度、白紙の段階から業務提携という話もありうるが、現状では難しいだろう」
 堀江サイド「いたずらに、敵対するつもりはない。互いの立場を尊重するということもわかるつもりだ。その上で最善の策があれば、それにこしたことはない」  

 この極秘会談はそれで、おわったという。両者は、互いに「来週の結果をみて(注意:ひとつはTOBの状況。もうひとつがライブドアの差し止め訴訟の司法判断)」今後の話し合いをすすめるということになったという。  
 しかし、この極秘会談は、両者に否定によって、幻の会談ということになっている。 
 だが、「両者が、直接に会談しないまでも、水面下で代理人を通して、そうした意向のやりとりがなされているとみていいだろう」というのは、実は、当のフジテレビの関係者だ。 
 さらに、経済界、政界から通して、様々な折衷案が相互にもたらされているともいう。
 「基本的には、ライブドアの持ち株比率を、20%未満。15−18%とする。その上で、業務提携の話を白紙から進める。という内容だときいています」(財界関係者) 
 とくに、経団連の奥田会長が、日枝さんにかなり説得にまわったようで、「日枝さんが、本気で潰す相手ではない。フジサイドが打開案をだせば、ライブドアはのってくる」と促したともいう。  
 別のフジテレビの幹部の一人がいう。
「今週末の司法判断しだいですが、これはどっちの判断がでても、高裁、最高裁へとあらそわれることは間違いありません。長期戦になれば、体力的にライブドアが不利とみるむきがありますが、実は、すでにフジテレビは相当のダメージをうけています。 
 まず、フジテレビの基本戦略に、「F10M10」というのがあります。10−20代の男女若者のニーズにこたえる番組つくりということを積極的にやってきた。これが、『おもしろくなければ、テレビでない』というキャッチフィレーズとリンクするのですが、この路線は確実にフジの路線を固めて、視聴率で三冠王をとるまでになった。さらに、これは、広告主であるスポンサーサイドにも、受け入れられた。しかし、今回の騒動で、フジテレビの最大のターゲットである10−20代の若者層が、実は、ライブドアにかなりシンパシーをもっているということがわかってきました。実は、この層をターゲットにした番組の視聴率は、この騒動の最中で減少傾向にあることもわかりました。これは、今後、広告出向にも影響してくる。これが、実は深刻な問題なのです」
「さらに問題は、すでにテレビ朝日などがとりあげていますが、フジテレビの恥部というか創業者である鹿内一族との確執というか経営権をめぐる過去の負の遺産がふたたび、浮上してくることだといわれています。 
 ですから、どこかで打開案をさがして、おちるところに落としたいというのが、フジテレビ経営陣のもうひとつの本音です。 その場合は、ライブドアに対して強硬路線を通した、日枝さんの引責問題も含むかもしれないけれど、このまま、ずるずると引き延ばしされれるよりは、ましだと、経営陣は考え始めています」(前出・フジテレビ幹部)  

 実は、こうした動きは、経済界だけでなくて、政界にもひろまっている。これまで、ライブドアに対して否定的な発言をくりかえし、証券法の改正を金融庁や、財務省に指示をだしたが、あの時点で「ライブドアの行動は違法とはいえない」というのが、金融官僚の統一した考え方だ。 
 時間外取引の規制。外国資本による公共放送への間接支配の規制。という二つが、今になって騒がれているが、これも様々な事情を抱えている。
「下手に手をうつと、世界のマーケットから日本市場は総スカンをくらう。改正するにしても慎重にいなかなくてはならない」というのが金融官僚の本音だ。 
 こうしたことから、「政治家が安易に、今回のライブドアの件を違法だとか、グレーだとか発言しないほうがいい」という空気ができたのだという。「経済人が、今回の時間外取引について、あれは、違法性が強いとか、グレーゾーンだと発言するのはいいでしょう。しかし、その元の法律をつくり、法整備を怠ったのが、日本の政治家なのです。とくに、森前首相あたりは、そうとうに風当たりの厳しい意見が、政界、官界、経済界から直接とどています。それ以来、森前首相はこの件に関して、発言をするのをひかえていますね」(閣僚経験者)  

 こうした動きをみてか、小泉首相は、「随分にぎやかだね。でもスポーツだったら、勝った負けたといいうのあるけど、今は、見守るだけです」(3月8日夕刻)と発言している。 
 小泉首相の元には、金融官僚や、証券マーケット関係者から「今回の件は、とくに外国の証券、投資ファンドが注意深くみまもっている」という情報がよせられている。「互いに経済行為なのだから、経済行為上で話し合い解決するのがのぞましい」というのが、小泉首相の本音だとされている。  
 さて、ライブドア騒動。 果たして、この辺でおちつくのだろうか? (一部敬称略、一部ソース秘匿) 文責・北岡隆 2005/3/9