米国経済に関するレポートの紹介

【Goldman Sachs】A Lower Fiscal 2007 Deficit, but then What?  (2007年5月18日)
【The Lindsey Group】This is What a Global Structural Adjustment Looks Like(2007年5月18日)
【JP Morgan】Data Watch: U.S.  (2007年5月18日)
【Research Note: U.S.】  (2007年5月18日)

の4本です。

【Goldman Sachs】A Lower Fiscal 2007 Deficit, but then What?  (2007年5月18日)
  ● 2007年度の連邦政府の財政赤字は1650億ドルになると予想される。これは税収が増えたこと、自由裁量予算支出が予想よりも低いと予想されることによる。
  ● 2008年度及びそれ以降も財政赤字削減を拡大していくことは容易ではない。そのためには、歳入が6.75%で成長し、一方で歳出が予算決議と同レベルに抑制される必要がある。しかし、今後、経済が同程度成長することは期待できない。また、企業収益の伸び率が高かったこともここ数年の歳入増に寄与していたが、これも最近弱まりつつある。このため2008年度の財政赤字は同程度の1750億ドルと予想される。
  ● インフレは低下しつつある。コア個人消費支出インフレは2%を割り込み、Fedの目標範囲である1〜2%の範囲に入るとみられる。住宅市場が減速し続けていることもこうした見方を裏付ける。
  ● これとは対照的に、製造業セクターのデータは予想以上に急速に回復していることを示している。一方、労働市場はGDP成長減速の影響を受け始めているようだ。


  【The Lindsey Group】This is What a Global Structural Adjustment Looks Like(2007年5月18日)
  ● グローバル・インバランスということが言われるが、経済も市場もこれを再調整しようとしてきた。インバランスの構造を調整するためには、米国経済の成長がより緩和される必要があり、経済成長の原動力を住宅、個人消費といった内需から外需に振り替える必要がある。こうしたプロセスは緩やかに、かつ厳然と進んでいく。現在の各種データを見る限り、現在は、この調整過程が最高潮にあると言える。
  ● 米国の住宅市場と個人消費は減速し続けている。住宅市場は安定したと言われてきたが、最近の指標をみると更なる失望を惹起することになる。建設業者のマインドは冷え込んでおり、過去15年で最低レベルとなっている。また、4月の住宅建設許可も1年前より28%減、ペース面でも3月から8%低下している。住
  宅市場は底を形成したのではないかと言われてきたが、各種のエビデンスを見る限りは、まだほど遠いといった状況にある。仮に底が形成されたとしても、それはV字回復ではなく、L字回復の可能性が高く、少なくとも2008年中は着工、販売、価格とも下押し圧力が続くとみられる。4月の小売は軟調であった。ガソリン価格が高騰していることから、ガソリンスタンドの売り上げは伸びているが、それ以外は低下している。また、最近リボルビング・クレジット(revolving credit)が急激に伸びるなど、住宅担保引き出しの状況が消費金融に影響を与え始めているというエビデンスも明らかになり始めている。
  ●   にも拘わらず、労働市場、株式市場とも強い状態にある。労働市場、株式市場が強いことにより、構造調整は世界的な流動性に支えられスムーズに進むとみられる。こうした状況において、Fedは金利を緩和することはないと予想される。
  ●  一方、貿易不均衡のカウンターパートともなる中国は人民元の1日あたりの変動幅を拡大し、一方で政策金利を6.57%に上げることを約束した。こうした中国の動きは来る米中戦略対話において協調的な雰囲気を創出しようというものである。しかし、これは単に象徴的なものだとの見方が強い。中国は、これ以上資本流入が増えると国内インフレを抑えられなくなるという実質的な問題を抱えている。中国にとってより好ましい金融政策ツールは支払い準備を増加させることであり、これは近い将来に実現できるとみられている。先月の中国の工業生産の成長率は17.4%、設備投資成長は25%ペース、輸出も27%ペースで増加しており、貿易黒字は、今年2000億ドルに達するとみられている。こうした状況から、若干の金融引き締めは避けられないとみられる。中国における金利高と為替に対する圧力も、もう一方の構造的調整プロセスと言える。


【JP Morgan】Data Watch: U.S.  (2007年5月18日)
  ● 今後、実質GDP成長率の加速が予想されること、また、コア・インフレ率がFedの許容範囲である1〜2%よりも上にとどまっていることから、Fedは本年末前後に利上げを開始すると予想される。
  ● この1週間に発表された経済指標をみると景気加速への確信を高める内容であった。新規失業保険申請件数は3週間連続で減少し、工業生産は加速に転じた。こうしたことから住宅部門の減速に起因する成長抑制効果は緩和されはじめたとみられる。
  ● 一方、コア・インフレ率は、過去2カ月間にわたって予想を下回り、4月のコア個人消費支出デフレータが前年比2.0%を割り込む可能性は十分にある。米国経済の加速、逼迫した労働市場、ドル安は今年下半期のインフレ率を押し上げると予想されるが、現状では、コア・インフレ率は予想を下回っている。


 【Research Note: U.S. 】(2007年5月18日)
  ● 米国の実質GDP成長率は2四半期間にわたって減速したが、企業収益は昨年第4四半期に減速したものの、第1四半期は順調に回復している。
  ●企業収益に与えた重要な要因は二つある。一つは、海外事業が好業績であったことである。世界的な需要は高く、欧州の経済成長が加速し、ドル相場は下落している。また、昨年第4四半期に価格上昇が抑制される一方、ユニット・レーバー・コストが大幅に上昇したが、今年第1四半期ではそれが反転し、国内の収益も回復した。
  ● 実質GDP成長率が2.0%にとどまり、労働生産性が大幅に減速したにも拘わらず、この1年間の企業利益率は安定している。この状況は、実質GDPと生産性が高い伸び率を示していたにも拘わらず利益率が低下した1998〜99年にかけての状況とは対照的である。今後、価格上昇率がユニット・レーバー・コスト上昇率を大幅に上回り、企業の利益率が安定的に上昇することはないとみられるが、一方で下半期には実質GDP成長率が加速するとみられることから、企業収益がすぐに鈍化することは考えにくい。