小説 日米食糧戦争-日本が飢える日小説 日米食糧戦争-日本が飢える日
著者:山田 正彦
販売元:講談社
発売日:2009-02-06
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 国会議員が小説を書いた。
「ええっ!、つまらない選挙用の政策本じゃないの」
そうじゃない。

 本格的な日米の食料戦争を描いたエンターテイメント小説なんだから驚きである。

 筆者は山田正彦衆議院議員。
 山田代議士は早稲田大学卒業後、弁護士資格を取った。
 しかし、昔から培った農業への夢忘れがたく酪農家へと転身、最盛期には150頭もの牛を飼育していた。
 ところが、ニクソンショックでアメリカからの大豆の輸入が止まり、肥料飼育に頼る酪農は大打撃を被ってしまう。

 政府の貧困な農業政策に怒りを感じた筆者は「日本の農業を根本から変えよう」と政界へと打って出たのだ。落選3回を経てようやく当選。現在4回生。民主党の農水大臣や厚労大臣を歴任。

 今日では民主党随一の農政通として知られ霞ヶ関、特に農水省で一番恐れられている存在でもある。

 BSE問題や食の安全問題などで世界を飛び回り、日本の自給率60%を目指して民主党の「農家個別保証」などの農業政策を作り上げた。
 また、民主党の厚労大臣時代は「後期高齢者医療制度」「派遣労働者」「年金」問題などに取り組み、政府を追及した人物。

 


 昨年9月、米国を震源地とするリーマンショックが大爆発を起こし燎原の火のごとく経済危機が世界中に広がって行った。アメリカでは3大自動車メーカーも倒産の憂き目に遭い、他の金融機関もかろうじて米国政府の資金援助で生き延びている。

 投資銀行が値をつり上げた石油は1バーレルあたり146ドルであった物が50ドル前後。

 一方、食料も大豆、小麦、トウモロコシも05年度から3倍を付けていた値が徐々に下がりつつあるとはいうものの、人口増とは裏腹に食料生産は追いつかないのが世界の現状だ。

 FDAは世界の大量商業食料生産物は150品目。
 年間生産量は44億トンであるという。

 そのうち小麦、トウモロコシ、米はそれぞれ6億トン。これらを60億人の人口が分け合って生活しているというわけだ。

 だが、世界の一地域で大干ばつ、大洪水、冷害に見舞われたり、それを見越して投資銀行に買い占められたり、また、食料に回るはずのトウモロコシがバイオエタノールに流用されるなどという要因が食糧危機を誘発する。

 さらに、食料輸出国が自国民保護と称して「輸出禁止措置」を発令すれば食料価格は一挙に暴騰。世界各国で食料分取り合戦が始まるのだ。

「食料は武器無き武力」といわれる由縁なのである。


 農水省の大和田大輔は本省の農政行政を批判したため水産政策研究所上級職員に追いやられていた。それでも毎日、シカゴの穀物相場を注視するのが習慣になっていた。

 ある日突然、小麦、大豆、トウモロコシが異様な上がり方を見つけた。

 かっての上司、食料安全保障課長に「シカゴの穀物相場がおかしいのです」と報告した。

 近年になってオーストラリア干魃やタイ南部のサイクロンで大洪水が続き食料生産が極端に下落。輸出国側の食糧確保を名目に「禁輸」措置を取る国が増えてきた。

 アメリカでもコーンベルト地帯に大洪水が発生、2〜3割の減産が叫ばれるようになる。

 こんな状況の下、アフリカや中南米の貧困層を中心に世界各地で「食料をよこせ」というデモが頻発。

 憲政党政府は「まあ、日米には歴史的な信頼関係があるからアメリカが禁輸措置を取ることはない」

 と高をくくっていた。

 そんな時、民政党野島正太郎代議士は「アメリカが禁輸措置を取るかも知れない」との危惧を描く。

 折しも「ニューヨークで10万人の食料を求めての抗議デモ  」という新聞記事に目がとまった。

「これは大変だ」

 直ちに農水省の役人議員会館の事務所に呼び「食糧危機への対応はどうなっているのか」と問いただした。

 ところが、農水省の役人は「そんなことは起こりません」とまともな回答がない。

 危機感を感じた野島代議士は大和田とワシントンに飛び立つ。

 バトラー農務次官に面会し「日本への食料輸出は大丈夫か」と問い詰めるが、はっきりした答えは帰って来なかった。

 アメリカはコリン・パール大統領へと政権が代わった。

 期待を一心集めたパール大統領だったが、経済不況や食糧問題は一向に解決せず支持率は下落の一方。

 そこで、日本が恐れていた「食料輸出禁輸」を発表するのだった。

 これを聞いた日本国民は「石油ショック」と同様、政府が「食料問題は大丈夫です」というアナウンスよりよ自分のカンを信じてスーパーなどに殺到。日本国中が大パニックに陥った。当然、食料の棚は空っぽになるし、大暴騰していくのだ。

 病人や年金生活の老人などには食料が買えず餓死者も増えていく・・・。

 「米よこせ」運動を見習ったかのような職を失った派遣労働者の食糧倉庫を強奪などなど。

 

 その裏で、虎視眈々と大もうけをねらう悪徳商社と裏の社会。そこに悪徳政治家や世界中で遺伝子組み換え種子、農薬を売りつける実在「種子会社」とおぼしき会社の存在。

 日本のパニックにつけ込んで「食の安全」を脅かそうとするアメリカ政府の思惑。

 

 農業問題に詳しい山田正代議士が最新資料を基に作り上げ、しかもエンターテイメントに仕上がっている。

 これは29%の食糧自給率しかない明日の日本か。決して絵空事ではない。

  

「100年に一度の危機」といいながら「日本の経済は悪くない」と二枚舌を使ってのうのうとする麻生総理。是非、読んでもらいたい本でもある。

(評者:辻野匠師)