「いやー、ひどいもんです。こんな所に生鮮食料品を扱う市場を作るなんてとんでもない」 3月20日、畑明郎日本環境学会会長は豊洲の築地市場移転予定地で地下水の水質調査を終えこう言い放った。
 この日の水質調査には畑会長(大阪市立大学教授)、坂巻幸雄副会長(元通産省地質調査所主任研究官)、新党日本・田中康夫、「市場を考える会」代表幹事・山崎康弘氏らが参加。土壌からしみ出す水を海に流す配水管を発見し採取した。

 この水を分析したところ
 水素イオン濃度(PH)  11.35      通常は6〜8
 電気伝導率      1989μS/cm 一般河川上流は50〜100μS/cm  全硬度         200mg/L
 科学的酸素要求量(COD) 13ppm
 亜硫酸(NO2)      0.2mg/L

 という結果が出たのである。
 PH値から言えば環境基準中間値の1万倍近い数値だそうだ。

 

「石けん水並みの強アルカリ性水であり、こういった水は廃棄物処理場の消却灰から出る地下水に近く東京ガスが石炭灰を敷地内に捨てていた可能性もある。また、いろんな物質が多分に溶け込んでいる」(畑会長)

 ここの土地は1956年から約30年にわたって東京ガスの工場地だった。ここで生成されたガスは天然ガスではなく石炭からガスを抽出していた関係からガスの製造過程せできた有害物質が大量に溶け込んでいるのだ。

 東京ガスは02年11月1日、東京都に対して豊洲跡地の土壌検査報告書を提出。
           環境基準    データー最大値   超過倍数
鉛           0.01以下            0.93                     9倍
砒素      0.01以下            0.49         49倍
水銀      0.0005以下   0.012       24倍 
六価クロム 0.05以下     0.07         基準以上
シアン   検出されてはならない  49     490倍
ベンゼン   0.01以下          15    1500倍

 こんなにも有害物質がとけ込み、人体への影響が懸念されるというのに、東京都はあらたな都市計画を策定。
 2012年に豊洲の東京ガス跡地や都所有の土地などを含む40ヘクタールという広大な土地に中央卸売市場を建設し築地市場を移転するのだ。

  築地市場は老朽化にともなって以前から改築か移転かで数次にわたって討議されてきた。
  
  共産党東京都都議会議員事務局次長・末延渥史氏が言う。

「築地市場は88年に建て替えという方向で決まっていたが、96年に青島都政の下、東京都は財政難から計画を見直していた。
 97年、青島都知事は交通基盤の整備、水と緑のネットワークをテーマに住宅、商業地、公園緑地などを建設する整備計画を立てる。
 ところが02年、石原慎太郎都知事の下、豊洲地区の土地利用方針に業務・商業、居住の他、市場という全く違う形態が押し込められていった。
 大手企業は東京再開発ブームで東京都内の広大な土地を探している。
 そんなとき、築地は銀座の目と鼻の先に位置する。売れば現在の実勢価格で2兆円くらいなるそうだ。
 これ目をつけた大手デバロパーらが石原知事に働きかけたんじゃないかと思う。
 だが、築地市場の移転といっても移転市場は広大な土地と海に隣接していいなければならない。
 そこで目をつけたのが豊洲の東京ガス工場跡地だった。
 99年、石原慎太郎が知事に当選して以降、東京都は東京ガスに工場跡地売却を打診した。
  しかし、工場跡地といえども湾岸地区であり再開発すれば風光明媚な一等地として生まれかわる。東京都の打診でも東京ガスは申し出を断固断っている」

 88年に策定された「豊洲・晴海開発基本計画」をもとに東京ガス豊洲開発を設立し住居、商業オフィスの建設を計画していた。
 そんな所に「市場を」作るから売ってくれといわれてもだめだと最初は断っている。
 東京ガスは00年6月2日付けで東京都副知事・福永正通あてに意見書を提出している。
 それによると
「豊洲埠頭は長く美しい水際線を有し、特に先端部はパノラマ的な景観がすばらしく付加価値の高い都市開発をすべき立地と評価しています。都民のニーズに答える豊かな街作りも又公益に資するものであり、都市計画の観点からは市場に勝るとも劣らない。
 また、豊洲の土地は工場跡地であり土壌処理や地中埋設物の撤去等が必要です。弊社では土壌の自浄作用を考慮したより合理的な方法を採用し、長期的に取り組む予定でありますが、譲渡に当たりその時点で処理と言うことになれば大変な改善費用を要することになります」
 と大反対していた。

 何としても築地市場が持つ土地が欲しい大手デベロパーはさらに石原陣営に働きかけたのか・・・。
 東京都は東京ガスの工場跡地にも防潮護岸工事(建設費600億円)をしなくてはならない。この土地の護岸工事分については東京ガス分を免除すると提案した。
 さらに、東京ガスの社長が石原慎太郎と同じ一橋大学出身でもあり、知事室からの裏工作が功を奏してか
01年7月6日
「築地市場の豊洲移転に関する東京都と東京ガスとの基本合意」
 を結んだ。
 この契約調印には副知事・浜渦武生と東京ガス副社長・伊藤春野が押印している。

「通常、こんな重大な基本合意は知事がするものだが、浜渦副知事の契約とはなぜか不自然なものを感じる」
(前出・末延氏)

 東京都と東京ガスは5回に渡って交渉を続けついに東京都の買収に応じた経緯がある。


  そのころ環境庁は02年2月、「土地汚染対策法」を国会に提出。審議の後、成立。
 03年4月1日から施行された。

 ところが、この法律にとんでもない不備があるのだ。

「土地汚染対策法」問題を追求した川内博史前沖縄特別委員長が言う。

「通常の法律というのは審議会が答申し、それに基づいて役人が法案を作る。土地汚染対策防止法については法の附則3条に施行以前の土地に対してはこの法案を適用しないとなっている。
 法案の基になった中央環境審議会では法律の適用除外など一言も審議されてない。そこで、若林環境大臣に質問すると『政府部内における検討の結果、そのように決めて提案したのでございます』
 としゃーしゃーという。
 つまり、環境省の役人が中央環境審議会を無視して勝手に法施行前の土壌汚染については適用しないということにした。
 この法律のよって豊洲の土地はどれだけ汚染されようと汚染地区にはならないんだ。
 環境省は豊洲の土地が汚染されていることを知っていたんだ。
 まったく、国民を馬鹿にしてる。
 東京都が豊洲の東京ガス工場跡地買収問題があった。それも環境省は知っていた。
 その土地の汚染正常化となれば膨大な金と時間がかかる。
 これではまるでもと環境大臣だった石原慎太郎知事を助けるために附則の3条を入れたじゃないかと疑られてもしょうがない。
 附則3条がなかったら『豊洲の土地』土壌汚染地域として使われる事はなかったと思う。
 まして、石原都知事が画策する『中央卸売市場』を作るなんてとんでもない。
 食の安全は農水省の管轄だが農水省は築地市場移転について『土壌汚染問題』は全く考えてもおらず豊洲はアクセスの良さから移転を承認した。役人は食の安全などに無関心で全く使えない。
 私は食の安全から豊洲移転は断固反対だ」

 築地の「市場を守る会」野末武氏が言う。

「築地市場は以前は改築ということだった。
 それが97年になって豊洲に行くと変わってきた。98年10月、市場関係社は1000社あるが宮崎場長時代に東卸組合は組合員の選挙を行い40対60で移転反対の決議を行った。
 宮崎場長は一団体でも移転に反対というなら、築地からの豊洲への移転はしないと文書に反抗と実印を押して約束した。
 ところが、市場組合内部で裏工作が行われ移転絶対反対の増田理事長が選挙で敗れ伊藤新理事長へと変わった。豊洲移転計画が着々と進められた。
 伊藤理事長のバックに深谷隆司元通産大臣の陰も見え隠れする。
 こうして、豊洲移転は既成の事実のようになったが、豊洲は晴海通りなど大きな幹線通りで仕切られ、自動車の排気ガス問題も新たに発生する。
 築地市場はこれまで食の安全や交通の便でも好条件下にあった。
 しかし、豊洲ではシアンやベンゼンといった有機ガスや鉛、砒素、六価クロムというい有害物質が土壌に含まれている。
 村上環境省局長は「豊洲は土壌改善をやっているから安全だ」というが、環境省は食の安全なんて考えて事もない。
 東京都は魚市場部分を50センチの高床式でやるから大丈夫だという。有機物がでてくる可能性をしっているんだ。
 ところで、ガスが床にたまったらそれを吸う可能性のある従業員の健康問題はどうなんだといいたい。
 そんな所で生鮮食料品を扱うこと自体、無謀としか思われない」

 現在、東京ガスは100億円かけて豊洲地域の土壌汚染改良工事をやり、3月一杯で工事を終了した。
 土地土壌汚染処理は現在の地盤面から2メートルまでは環境基準以下になるよう土を入れ替えるとか、健全土で2.5メートルの盛り土を行い30〜40センチのアスファルトでその上を覆う事になっている。
 
 畑日本環境学会会長が言う。

「100億円ぐらいかけて土地の改良をやっているようだが、そんなものでは済まない。本当なら土地を深く掘り起こして洗浄化させる事。これぐらいやれば1000億円ぐらいになるのだが。
 土を森土してアスファルトで覆っても環境汚染は避けられない。野菜や鮮魚は大量の水を使う。その水がアスファルトのひび割れなどのしみ込み、毛細管現象で汚染物質がしみ出してくる。そのことで魚や野菜が汚染される事になる。
 シアンやベンゼンなどは揮発性のもの。汚染土壌から蒸発するのは当たり前。市場関係者がこの気体をすえば健康被害が出るおそれがある。
 また、豊洲は江戸時代から続いた築地市場と違って最近の埋め立て地。近年にもありそうな地震では地盤の弱さから液状化現象で汚染物質が地上に飛び出す事は自明の理。
 一度汚染されたものはどんなことをやっても100%安全になることはあり得ない。
 食の安全は至上命題だ。豊洲移転はやってはいけない」

 
 当の石原慎太郎都知事は再選後の会見で

「築地は選挙戦のために無理矢理持ち出された問題だ。だが、あれだけの話題になったのでとにかく早めに専門家を選んで検討してもらう。
 あそこは大量のアスベストが使われておりもっとも現代的で機能的。清潔で危険でない施設に変えるべきだ」
  という。

 平沢勝栄・食の安全担当副大臣がいう。

「豊洲市場の問題は東京都の問題だ。石原さんも都知事選挙の時に私の選挙区に来て『豊洲の土地は再調査する』といっていた。
 だから東京都がきちんと土壌調査をすればいい。やると言ってるんだから。その後、土地の調査報告書が上がり、それで豊洲の土地に問題があれば食品安全委員会を開いて協議すればいい。あと半年ぐらいはかかりそうだが、あまり慌てることはないと思う」

 前出、川内博史議員が言う。

「中央卸売市場の認可は農水省の管轄だ。農水省はこの間、豊洲市場については交通事情しか調べてない。生鮮食料品を扱う事になる豊洲については『食の安心安全』の観点から一度も検討されたことがない。
 そこで、4月25日の農水委員会でこの問題を取り上げ再度豊洲移転に意義を申し立てる。
 その後も、『食の安心安全』を立てに内閣府の『食品安全委員会』で豊洲市場を検討してもらう事にする。
 石原東京都知事が『石原ファミリー』の利益か何か知らないけれど、強引に築地から豊洲への移転を推し進めるならばあくまでも徹底的に反対する」 

 東京オリンピックにかこつけた土地再開発。またまた、怪しげな人物が徘徊しているようだ。
    

以上

取材:辻野匠師