神なるオオカミ(上下) 姜戎著 唐亜明 関野喜久子訳
評者:橋本伸
四十年前の中国の文化大革命当時、内モンゴルの草原に自ら希望して下放(毛沢東の指示で都市部の青年を農村に送った政策)された著者が、11年にわたる草原での体験を下に描いた遊牧の民とオオカミの壮大な自伝的ドラマです。
訳者の唐亜明氏の翻訳後記によれば、中国では二百四十万部売れ、海賊版を含めると千八百万部のベストセラーになり、中国社会に「オオカミブーム」を巻き起こしたそうです。第一回マン・アジア文学賞も受賞、世界各国で翻訳されています。
物語は、内モンゴル自治区のオロン草原に下放され、優秀な狩人でもあるビリグじいさんの下で、羊飼いの見習いをしている陳陣が黄羊(野生の羊)を包囲するオオカミの群れを観察する場面から始まります。
モンゴルのオオカミは、遊牧民が大切にしている羊や馬を襲います。それも、遊牧民の寝静まった時間帯などに襲うほど悪賢い動物です。
しかし、「モンゴル・ハイイロオオカミセンター」代表のトンガラグツヤ・クウクヘンデュー氏の講演によれば、古代からモンゴルの氏族はオオカミを崇
拝し、モンゴル帝国時代には、宰相と次席だけがオオカミの毛皮を敷物にできると法で定めていたほどです(『オオカミを放つ』2007年刊から)。
大事な家畜を奪われても、遊牧の民がなぜ、オオカミを草原の守り神として敬うのか、本書を読めばわかります。
姜戎氏は、草原にいったばかりのとき、「おまえたち漢人は草を食べる羊で、おれたちモンゴル人は肉を食べるオオカミだ」といわれ、カルチャーショックをうけました。草原オオカミの魅力にとりつかれ、姜戎氏は遊牧民からオオカミに関する話を二百ほども集め、巣穴から盗んだオオカミの子を育てたりもします。
姜戎氏は、訳者に「この野性的で、原始的な生命力あふれる作品に読者が強い興味を示してくれると思った」と語っていますが、まったくその通りです。(初出:「赤旗」2008/2/3)
ジャン・ロン 一九四六年生ま
れ。北京の某大学準教授。
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参考:日本列島にいた狼たち