永田町の関係者が密かに注目しているインタビュー記事がある。
それは、朝鮮日報が2008/02/09に報じた「竹中平蔵氏インタビュー」である。
朝鮮日報
http://www.chosunonline.com/
しかも、5部作に分割された長文インタビュー記事。
「日本も韓国も民間主導が必要」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(1/5)
「韓国も日本のように“小さな政府”を」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(2/5)
「必要なのは政策通ではなく政策専門家」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(3/5)
「最大の味方は小泉首相だった」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(4/5)
「韓国は“競争政策”を推進すべき」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(5/5)
「規制緩和というなのもとで、外資に日本の資本をうりわたしただけ。改革というなのもとで、格差社会をつくっただけ」との厳しい評価のある小泉改革。その小泉改革の最大の推進者が竹中平蔵氏だった。いい意味でも悪い意味でも。
しかし、竹中平蔵氏の決断はひとつも緩んでいない。小泉改革を実質的に停滞させ逆行化させている福田政権に対しては、公には口にしていないが、手厳しい評価をしているという。
「グローバルスタンダードを否定的にあつかうのが、日本の知識人だという悪い風潮がある。これは鎖国主義に近いアナクロニズム。すでに、日本は一国だけでは繁栄も成長も生存もできない状況になっている。この現実を直視すれが、規制緩和をおこない、改革して国際競争力をつけるしかない。小泉改革はその一里塚だった。たしかに、この過程で歪みも生じた。しかし、現実の歪みだけに目をやって、それを大衆迎合的につぎはぎだらけの政策をうちだせば、日本の国際競争力は確実に減退する。与野党の一部やそれに迎合する知識人は、かっての高度成長期の幻想に浸っているだけ。しかし、高度の発展した段階では一国だけの繁栄はありえない。そういうと協調が必要だという人がいる。協調も正しいだろう。しかし、その前に、競争力をつけずに協調という愚かさについて気づくべきだろう。それとも、日本国は衰退していい、日に日に減り続ける富を公平に分担できればいい、問題は格差なんだ。格差の解消をおこなえば、国の成長は目をつぶってもいい・・・というのなら別だが。しかし、私は日本をそんな国にしたくない」
これは、最近の竹中平蔵氏のある財界人とのオフレコの会話内容だ。
とうぜん、ここからは福田政権への手厳しい評価が下る。
このタイミングでの、竹中平蔵氏のインタビュー記事である。
どう、読み取るか?
公共性の高いインタビュー記事と判断するので、全文転載する。
原文は、朝鮮日報http://www.chosunonline.com/にあたってほしい。
「日本も韓国も民間主導が必要」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(1/5)
小泉純一郎政権(2001‐06年)は画期的な出来事として日本の歴史に刻まれている。明治維新以降、日本の官僚主導発展システムが劇的に変化したからだ。「官から民へ」という小泉政権の簡潔なスローガンは、官僚主導システムを民間主導に変えた改革のすべてを物語っている。「大きな政府」の遺産を受け継いだ李明博(イ・ミョンバク)次期政権も、同じ道を歩み始めたと言えよう。
改革とは意志と知恵の合作だ。小泉首相が意志の力で改革を推し進めたとしたら、野戦司令官として改革を集大成したのは民間学者出身の竹中平蔵・現慶応義塾大学教授だった。竹中氏は小泉政権期間中ずっと大臣職を務め、権力のある経済財政諮問会議を通じ、改革政策を打ち出し、これを実践した。日本郵政公社と政策金融民営化、首都圏・労働規制緩和、特区設置、減税、公共事業半減を含む財政改革など、21世紀に入り日本を変えたほとんどの改革政策は竹中氏を通じて行われた。東京で竹中氏に会った。
―なぜ民間主導が必要なのでしょうか。
「日本も韓国も同じです。経済の発展段階が低い時点では、“国が何を実現すべきか”という目標は誰でも分かるほどはっきりしています。“開発独裁”という言葉もありますが、そういう時期は資源を集中投下し、官主導で経済成長を導いていくのも、それなりに意味があるでしょう。しかし、経済が高い水準に達した時点では、さまざまな人々のさまざまなノウハウを積み重ね進歩していかなければ発展はできません。民主導は必然的、つまり“宿命”ですね」
―日本は近代化以降、官僚主導で先進国になりました。「世界で唯一、成功した共産主義」とも言われていますが。
「2000年代以降、日本ではある未来像がはっきりと見えてきました。将来人口が減るということです。原因は少子化です。人口が減るのに政府が大きなままだったら、次世代の税負担はますます増えます。そのうえ高齢化まで進めば、税負担は若い世代に集中せざるを得ません。どれも確実に迫ってくる未来の姿です。次世代の負担を減らすには、小さな政府を作らなければならなかったのです」
―韓国も同様の状況ですが、「小さな政府」というのは何ですか。
「小泉政権は省庁を大幅に削減した橋本行政改革の基盤の上に発足しました。しかし、組織を減らしたからといってすぐに“小さな政府”が実現するわけではありません。小さな政府というのは、一言で言えば“民間でできることは民間に任せる”ことを意味します。官僚の力ではなく、民間の活力で国を導いていくのが小さな政府です」
東京=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
朝鮮日報/朝鮮日報JNS
「韓国も日本のように“小さな政府”を」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(2/5)
―北欧は大きな政府で成功しました。韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権も北欧を発展のモデルにしましたが。
「北欧の国民負担率は70%に達します。それでも高い成長率を記録しつつ、素晴らしい国になりました。サイズが小さいですからね。人口700‐800万人程度の小さな国は、大きな政府により発展可能です。政府というものは非効率的です。人口が少なければ、政府の効率の悪さを国民がチェックし、直ちに修正することが可能です。でも、日本の人口は1億2000万人。いくら人口が減ったとしても、大きな政府が必要な規模ではありません。国民が政府を一つ一つチェックすることも不可能です。大きな政府の効率が悪くなるのは当然です」
―韓国の人口は約5000万人です。
「やはり多いですね。人口5000‐6000万人のイギリスも“サッチャー革命”で小さな政府を実現した後、経済成長率が上がりました」
―小泉改革では「経済財政諮問会議」という組織が大きな役割を果たしました。独特の組織だったと思います。権力を持ち、多くの改革を成し遂げました。(首相を補佐する内閣府に設置されたこの組織は、その平凡な名前とは違い、内閣府設置法という法律に基づき、経済政策・予算編成・税制改編など旧大蔵省や経済企画庁の強い権力を握っていた。竹中氏は、小泉政権時代にこの組織の運営責任を負っていた)
「経済財政諮問会議は、官僚ではなく政治家が国の政策を主導し決定するということを象徴していました。ここでの政治家とは首相のことです。経済財政諮問会議を作ったのは橋本龍太郎元首相でした。橋本行政改革の本質は省庁数を減らしたことではなく、(権力を内閣府に集中させることで)首相のトップダウン(組織上層部が意思決定し、下部組織に指示する方式)による政策実現を可能にしたということです。これは“小さな政府”が必要な時代にとても重要な役割を果たしました。官僚は自分の組織が小さくなるのを嫌がりますから、当然小さな政府を作るという改革には反対します。こうしたとき、国の将来を思い、改革を実行できるのは政治家だけです。橋本氏が作った制度を小泉氏がうまく使ったと言えるでしょう」(2006年7月に死去した橋本元首相は、政界においては小泉元首相のライバルだった)
―韓国も部処(省庁)再編により大統領府の権力を強化しようとしています。しかし「トップダウン方式」は小さな政府や民間主導に逆行するものではないのでしょうか。
「経済財政諮問会議にはとても大きな特徴が二つあります。一つは大臣以外に民間人が含まれているという点です。大臣は省庁・官僚と非常に密接な位置にいるため、官僚の影響が強くなりがちです。省庁の見解を代弁するのも当然でしょう。でも、民間は(省庁の影響を受けないため)政策決定の過程で“世論”を主張できます。既得権に捉われず、本来あるべき政策、つまり国民世論を語ることができるのです。二つ目は、同会議で話し合われた議事録が3日後、日本国民に公表されるということです。このため、既得権にこだわるような偏った論議はできませんでした」
東京=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
朝鮮日報/朝鮮日報JNS
「必要なのは政策通ではなく政策専門家」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(3/5)
―議事録の公表は法律で義務付けられているのですか。
「運営上の問題です」
―小泉政権の時代が終わると、諮問会議の力が目立たなくなりましたが。
「やはり人(メンバー)の意志の問題ですね。小泉政権時代には首相の非常に強い意志で改革を引っ張っていきました。ところが、今は改革を続けようという意気込みやモメンタム(勢い)は消えてしまいました。同じ制度でも人が後退すれば進まなくなることがあります。基本的に人の問題です。だから人事が重要なのです」
―「政策通」と「政策専門家」を区別し、「政策専門家」の登用を主張しましたね。
「官僚が決めた政策をそのまま実行する人は“政策通”と呼ばれています。官僚たちがそのような人々を指して呼んでいるのです。本当に必要なのは政策通ではなく政策専門家です。官僚の言うとおりにするのではなく、自ら政策を考えられる人のことです。そういう人は官庁にも民間にもあまりいません。若いころに政府で働き、再び学界に入り学問をするというように民官が開放されれば、多くの政策専門家を育てられると思います」
―韓国では経済政策と予算編成の権限が別々になっていましたが、これを同一部処に統合しました。「改革の逆行」と批判する声も出ています。
「いいえ。“一体”でなければなりません。企業で言えば、営業部長と経理部長が別々に動くのと同じです。別々に動けば経営になりません。国を戦略的に動かすには、財政とマクロ経済が一体になり動くべきです」
―問題は、そうした権限を官僚が独占しているということです。
「官僚は国にとって非常に重要な役割をします。政策は国民の経済的厚生・幸福を最大化するためにあるものですから。しかし、政策によっては(官僚たちに)利害が生じます。そうなると(国民の幸福ではなく)官僚の影響力を最大化するため、自身の組織のために政策を作る場合もあり得るのです。例えば、日本郵政公社民営化のとき、財務省(大蔵省の後身)の官僚たちは一生懸命、わたしをサポートしてくれました。それでも、政府の特別会計改革には抵抗しました。郵政民営化は組織の利権とは関係なく、特別会計改革は利権と関係があるからです。これは官僚の“宿命”です。これをコントロールするため政治が必要なのでしょう」
―政治も既得権トライアングル(政界・官界・財界)の頂点にあります。小泉改革の最も強力な抵抗勢力は政治だったのではありませんか。
「族議員(業界の利益を代弁する国会議員)問題ですね。族議員、族議員を支える経済界、これらをつなぐ官僚は利益を守る三位一体の共同体です。どれが強いとは言えませんが、表立ったのは国会を舞台に強力に(改革を)批判した政治家たちとの対立でした。官僚は大臣の下にいるためコントロールできました」
東京=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
朝鮮日報/朝鮮日報JNS
「最大の味方は小泉首相だった」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(4/5)
―族議員たちの攻撃から守ってくれた政治家は?
「最大の味方は小泉首相でした。当時、武部勤幹事長(小泉首相に続く自民党序列第2位)や、安倍晋三・同官房長官も味方でした」
―やはり、権力中枢部の意志は強かったのですね。公共部門の民営化問題では政権をかけ、衆議院議員選挙(05年)までしましたね。
「改革には二つの道があります。一つはリアクティブ、つまり過去の積弊(長年の弊害)を正すための受け身的な改革。もう一つはプロアクティブ、つまり未来を切り開くための攻撃的な改革です。二つとも必要なものです。小泉政権時代の代表的なリアクティブ改革は不良債券処理問題でした。そしてプロアクティブ改革のシンボルが郵政民営化だったのです。小さな政府を実現するため、最も象徴的な政策は何だろう…それが最大の政府組織の民営化でした。つまり日本郵政公社です。小さな政府を目指すのに、これだけは譲歩できませんでした」
―小泉政権は首都圏・労働規制など多くの規制を廃止したり緩和したりしました。規制改革のうち最も象徴的だったのは何でしょう。
「わたしがアイディアを出し、小泉首相が受け入れて実現した“特区”(一定地域で規制を廃止すること)です。規制緩和について語れば、“規制緩和は弊害が大きい”と誰もが心配します。特区は、“規制を緩和しても弊害のない、経済が活性化される事例”を示してくれました。規制緩和に対する国民の心理的な高い壁を特区が引き下げてくれたのです」
―総務大臣としてNHK改革もリードしました。なぜNHKの改革が必要なのでしょうか。
「日本にはNHKと民放があります。国民は“NHKの番組は質が高い”と考えています。民放番組の質は低いと思いますね。NHKと民放が互いに競い合う体制がいいのですが、NHKはガバナンス(支配構造)に非常に大きな問題を抱えています。不祥事が頻発しているのにそれを隠すなど…。番組はいいのに、こうした問題が起きるのは、ガバナンスに問題があるからです。それはどんな問題でしょうか。NHKには経営委員会(経営方針などの重要な事項を決議する最高機関。両議院の同意を得て内閣総理大臣より選任される)があります。大きな権限を持ちながら、全員非常勤です。これは変だと思いました。取締役が全員非常勤の会社は普通ありません。“常勤を置ける法律を作ろう”というのがわたしの主張でした。ガバナンスを確実にしようということです」(当時の竹中総務大臣は、「経営支援をNHKの公共性に集中させ、組織をスリム化する」という目標を掲げて改革に着手、チャンネル数削減や直系会社・関連団体の統廃合方針を打ち出した。受信料20%引き下げの方針を出したのは、後任の菅義偉総務大臣のときだった)
―小泉時代以降も政府のNHK改革への意志は同じですか。
「わたしの考えを後任の菅義偉総務大臣が引き継ぎ、菅大臣の考えを今の増田寛也大臣が受け継いでいます。2年前に取り上げた問題が継承されているのです」
東京=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
朝鮮日報/朝鮮日報JNS
「韓国は“競争政策”を推進すべき」
小泉改革の立役者・竹中平蔵氏インタビュー(5/5)
―竹中教授は新聞のコラム欄に「日本が改革を進めるには、あと10年必要だ」と書きました。日本が発展するには今後、何をすべきでしょうか。
「プロアクティブ改革は今やっと始まったばかりの段階です。ほかの国ではすでに行われ成功しているのに、日本がしていない改革はたくさんあります。例えば、他国に比べ高い法人税の引き下げ、そして最近わたしが主張しているのは“東京大学民営化”です。東京大学は日本で最も多く国民の税金を使う大学です。それなのに世界大学ランキングでは17位。東京大学を世界ベスト5位以内にランクインさせるべきです。東京大学は国により保護されています。国の保護で優位を確保しているのであれば、意味がありません。競争を経て体質を強化する必要があります。同じ条件下で競争するためには、民営化が必要なのです」
―やはり教育改革ですね。ほかに課題は?
「来週、韓国へ行きます。韓国投資公社(KIC=政府が保有する外国為替・共通基金などの資産を運用し、利益を出す公社)を研究するための出張です。日本にもこうした組織が必要です。もう一つ、空を開放する“オープンスカイ政策”が必要でしょう。つまり空港の自由化。今、羽田空港の国際線は一部だけ運航されています。羽田を開放し国際化すれば、東京−香港間を日帰りできます。今はできませんが」
―韓国にアドバイスするとしたら。
「韓国の進むべき道は韓国人が考える問題ですが、やはり“競争政策”を推進するのが重要でしょう。かなりの規模を持つ一部の経済界、つまり財閥が大きな力を持っているため、小さな企業が対等に競争できるよう、財閥が寡占状態を作らないのが大切だと思います」
―「小泉改革で貧富の格差が広がった」と批判する声もあります。
「確かに、日本では格差が広がっています。世界的に見ても同じです。韓国も日本も、グローバリゼーション(世界化)という名のもと、経済のフロンティア時代に直面しています。フロンティア時代で格差が広がるのはやむを得ません。改革したから格差が広がったのではなく、改革をしても、しなくても格差が広がる時代なのです。格差はないほうがもちろんいいです。ですが“改革したから格差が広がった”と言って改革をしなければ、日本経済全体が活力を失ってしまいます。“格差”というのは、改革に反対する人々の政治的な言い訳、政治キャンペーンに過ぎません」
東京=鮮于鉦(ソンウ・ジョン)特派員
朝鮮日報
http://www.chosunonline.com/
以上