寺島実朗云々・・・地政学について、無自覚
読者投稿
by ksさん。


 前回、http://officematsunaga.livedoor.biz/archives/50956426.html
で、私は、

>鳩山、寺島、小沢は、この影響下にあるんでしょうが、ハウスホッファーあるいは地政学については、無自覚なんじゃないでしょうかねえ。
>自覚してたら、自分たちの構想をEUに擬えたりできないと思うんです。

と書きました。
そう考える理由を述べます。

 

1.
EUはギリシャ哲学・ローマ法学・キリスト教の三つを基盤としているといわれます。
もちろん、国家の統合が可能となるには、共通の基盤が必要です。
では、三つを基盤をよく見てみましょう。
実は、すべて法についての話です。
ローマ法学はそのままですのでほかの2つについてみます。

日本人にはピンとこないかもしれませんが、セム・ハム唯一神教では、信仰とは、律法を守ることです。

そして、西洋人が近代のルーツをギリシャに求めるとき、念頭に置いているのは、法に殉じたソクラテス。
さらに、アテネ民主政の完成者であるペリクレスの「文明社会というものは法律である」という言葉です。

「三つを基盤」が示しているのは、法こそが国家であるとの観念を共通の文明としてすでに共有しており、法の下での平等を原理として尊重、互いに保証しあい、(ローマ法的な)法体系を共有しているということです。
法を彼らの国体の基礎として位置づけているのです。
あるいは、法を彼らの国体の基礎として位置づけたからこそ統合で来たのです。

日中が統合しようとして、互いに納得できる国体の基礎があるんでしょうか?
アジアに広げた時は?

2.
三つを基盤を共有しているからと言って、必ず統合できるとは限りません。
事実、欧州はずっと分裂したままでした。
ライプニッツの宗教統合によるヨーロッパ統合運動からクーデンホーフ・カレルギーのパン・ヨーロッパ運動までの平和的手段によるもの。
ナチス・ドイツの武力よるもの。
成功したものはありません。

では、EU統合を促したのは何か?
冷戦による3つの脅威である、というのが私の見解です。

1つ。革命の輸出の脅威の共有。
国体がソ連とは違いすぎるうえ、革命の輸出が懸念されました。

2つ。マッキンダー流の地政学的脅威の共有。
マッキンダーは、歴史地理の研究をつうじて、半島の付け根付近が、半島とその内陸部双方にとって、安全保障上の脅威であることを見出しました。
フン族の侵入、モンゴル帝国。
東欧を内陸国家に抑えられることはヨーロッパ半島の死活問題です。
白いオルド、モンゴル帝国の後裔であるソ連の東欧支配は、その脅威をヨーロッパ半島の国家群に共有させたことでしょう。
(逆にポーランド、バルト三国を抑えられることはロシア地域にとって脅威。ナポレオンの時代から侵入経路。)

*ナチス・ドイツの戦略に影響を与えたハウスホッファーは、、マッキンダーの「ハートランド(ロシア地域)を支配するものは世界島(ユーラシア)を制す」を応用して、ではロシアと組めばよいと、独露同盟を構想しました。
しかし、ドイツもヨーロッパ半島内の国家であることを見逃し、ドイツをランドー・パワーと規定(ドイツだけを見るならその通り)したうえで、マッキンダーのいう、半島と内陸の安全保障上の対立を無視したのでした。
独露同盟構想は失敗に終わります。

*また、ナチス・ドイツにはカール・シュミットの影響もあります。
それは、当時の覇権国、シーパワー英米の覇権をランドパワーがひっくり返すというものです。

3つ。エネルギー及び資源の安全保障上の脅威。
冷戦の地政学的構造とは、ハートランド=ランドパワーのソ連と史上初の2つの太洋に面した帝国であるシーパワー・アメリカの対立でした。
世界島(ユーラシア)の沿岸部(リムランド)が対決の舞台でした。
多くのリムランド国家は陸路を塞がれ、アメリカがコントロールする海路を使用します。また海運がコスト的に一番有利でもあります。
しかし、資源ルートという命綱をアメリカという他国に抑えられた状況を共有することになります。

3つのECsの一番最初、1952年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が先行して成立しました。
安全保障なしには経済は守れず、資源あっての経済であり、物資あっての軍事だからです。


これらの脅威を現実問題として共有していたからこそ統合に動き始めた、と私は見ています。

日中にこれらの共有はありません。

1つ目の革命の輸出についてはネパールの例を見れば懸念が残っています。

3つ目のエネルギー及び資源の安全保障上の脅威ついては以下。
日本経済はシーレーン無しには成り立ちません。実は中国もかなりシーレーンに依存しています。(参考 http://www.sof.or.jp/jp/news/101-150/135_1.php
この状況だけみると、エネルギー及び資源の安全保障上の脅威を共有できそうにみえ、シーレーン確保で共同できそうに見えます。
しかし、中国はすでに、独自にシーレーン確保に動いています。
上記参考にもある「真珠数珠繋ぎ」戦略です。これはすでに着手されており日本の協力は必要としていません。また、南シナ海を、すでに中国の海と見る向きもあります。
中国が必要とするのは、アメリカとの棲み分け交渉です。
仮に、在日米軍が無くなっても、アメリカにはグアムを空母基地にする計画があり、であれば、ディエゴ・ガルシアまでの連絡は保たれ、制海権はアメリカが抑えるからです。

*つまり、在日米軍が無くなったからといって、シーレーン・コントロールに参加できなければ、日本の自立独立が成るわけではありません。
ABCD包囲網を思い出してください。

2つ目のマッキンダー流の地政学的脅威は別の効果を生み出すでしょう。
「真珠数珠繋ぎ」戦略がもたらす効果です。
それは、資源ルートの維持には、軍事プレゼンスが使用されるのが常であるということです。中国の過去の行動も例外でなく、実際に軍事基地の設置とセットになっています。
すると、上記参考にある地図を見ればわかるように、インド、東南アジアが中国に包囲されてしまいます。
インド、東南アジアはそれぞれ大きな半島と見做せ、まさに中国とマッキンダー流の地政学的脅威で対立してしまいます。
インド、東南アジアこそEUに比せられ、中国はソ連に比せられるべきでしょう。
半島対内陸でパワーバランスが内陸に傾いたときどうなるかは、朝鮮半島の歴史が教えてくれます。
インド、東南アジアはモンゴル帝国に攻められた歴史を思い出しているかもしれません。
日本のシーレーンには緊張がもたらされます。
実際、印中には緊張が高まってます。最近のリー・クアンユーの、中国を非難しつつの鳩山共同体構想非難発言の背景の一つでもあるでしょう。
中国との共同体を先行させる、中国重視という民主党の東アジア共同体構想は、ハウスホッファーの独露同盟論に似てきます。

3.
さて、アメリカのリムランド戦略はスパイクマンの提言に基づいています。
そのひとつは、アメリカの同盟国以外のリムランド同士の結託を阻害する、というものです。
ヨーロッパはNATOの存在を、これを回避するの盾、あるいはカモフラージュとして利用したのです。
ヨーロッパがアメリカに公然と従わなくなったのはEU成立以降です。

このような盾が日本にあるのでしょうか?

結び.

民主党の東アジア共同体構想とEUの内実は全く異なります。
このまま推し進めても、EU統合に働いたのとは、全く別の力学が働くだろうと予測します。

ゆえに、民主党の東アジア共同体構想をEUに擬えたりできないと考えるのです。


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