【時代小説発掘】
薩摩いろは歌 雌伏編(三)島からの手紙
古賀宣子
(時代小説発掘というコーナーができた経緯)
これまでのあらすじ:
大久保利通の原点はお由羅騒動ではなかったか。斉彬派(正義党)に属し、遠島に処せられた父次右衛門は、流人船で発つ日の朝、果たせなかった志を、正助(大久保利通)とその盟友吉之助(西郷隆盛)に託していく。
「企ては発覚しては何もならぬ。慎重に、念には念を入れど。激しては負けだ」
よいな。父は二人を見据えて、無言で命じた。(本文より)
一網打尽と思われた処分だったが四人の脱藩者が判明し、敵方(庶子派)は探索の目を緩めない。役料の途絶えた大久保家に借財は容赦なく嵩んでいき、挫けそうになる正助。探索方はそこにも付け込んでくる。それを瀬戸際で押しとどめるのは、郷中教育で叩きこまれた日新公いろは歌だ。そして大久保家を脇から支える羅宇屋の錦屋源助(実は黒田家隠密)。一方、西郷家は用頼みを務めていた物頭赤山靭負の血染めの裃(かたぎぬ)を貰い受けており、密かに二人はそれを羽織り合い、正義党の火を絶やすまいと決意を新たにする。
第三話梗概:
翌年春、父から無事の報が届き安堵する傍ら、以前赴任していた沖永良部島には、島妻がおり、娘の死を知らせる手紙が波紋を及ぼす。斉彬襲封の朗報を綴る手紙とともに、父の荷にそれを入れるかどうか。複雑に揺れ動く母。飛脚船が発つまでの猶予は二日に迫る。それでも母の心を思いやり、根気よく誠実に処していく正助。
「筆さぁ、ひょっとしたら喜界島へ逢いにくうかも・・・」
「いけんぞ(どうでしょう)、遠すぎもす」
遠すぎますよ。否定しながら正助は懸命に母の肩を揉んでいた。(本文より)
作者プロフィール:
古賀宣子。年金生活の夫婦と老猫一匹、質素な暮らしと豊かな心を信条に、騒々しい政局など何処吹く風の日々です。新鷹会アンソロジー『武士道春秋』『武士道日暦』『花と剣と侍』、代表作時代小説『剣と十手の饗宴』などに作品掲載。
当コーナー【時代小説発掘】では、編集担当。
薩摩いろは歌 雌伏編(一) 仙巌洞
薩摩いろは歌 雌伏編(二) 血染めの裃(かたぎぬ)
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薩摩いろは歌 雌伏編(三)島からの手紙 2010年10月13日